30歳過ぎから工学 vol.2

http://d.hatena.ne.jp/j130s/ から移行しました.オープンソースロボットソフトウェア技術者兼主夫. 高校・大学学部文系-->何となくソフトウェア開発業-->退職・渡米,テキサス州でシステムズ工学修士取得,しかし実装の方が楽しいと気付き縁があったロボティクス業界で再就職.現在 Texas 州内の産業用オートメーションのスタートアップに Georgia 州から遠隔勤務.

講演感想: チューリング賞受賞の Dr. W.Kahan, from UC Berkley

先月ノーベル賞日本人受賞者が一気に 4人も誕生して盛り上がっていますが, 私の働いてきたコンピュータ或いは情報産業では世界中を見ても受賞者がこれまで出ておらず, その代わりかどうか知りませんがチューリング賞というのがコンピュータ科学者にとってのノーベル賞と時々言われています. 今日は歴代受賞者の御一人であるカリフォルニア大学バークリー校の W.カーハン博士の講演が私の通う学校であったので参加しました. 氏はコンピュータ上で数字を扱う為の基本概念の一つであり, 少しでもコンピュータプログラムを書いたことのある人なら誰でも知っている"浮動小数点数(floating point/float)"の理論を確立した方です.
講演概要: Why I Can Debug Some Numerical Programs You Can't
しかし, 講演内容の殆どが数学用語や数学的概念の説明だったためか無念にもまったく理解できなかったので, 今回は講演録ではなく徒然草になってしまいました(そしてこの文章は英訳して授業課題のレポートになる).
氏のような, コンピュータを開発する上で役に立つ理論や仕組みを考える人はコンピュータ科学者と呼ばれます. 一方, 社会で使われるコンピュータシステムを構築する人は情報技術者です. 呼び名の揺らぎはあれど, とても大雑把に言うとコンピュータソフトウェアに関わる職業はこの 2つに分かれる気がします. コンピュータ科学者はどうやったらコンピュータがもっと速く動くか, より高度な処理が実現できるか, ということを研究している. 一方, 情報技術者はどうやったら人がより良く情報を扱えるようになるかを考え, その仕組みを造っている. 以前の上司の考え方を借りると, 前者はコンピュータを改善する為の, 後者は人の生活や社会の為の活動だと言えると思います. この二者は必ずしも排他的ではなく, 科学者でありかつ技術者としても一流である方も多いんだろうと思います. そして両者共に数学センスを求められますが, 特にコンピュータ科学者はその点で高い素養が必要です.
Kahan博士 の活動は一貫しては数学者, コンピュータ科学者としてのそれであり, 複雑な数学的処理を可能にするアルゴリズムの開発をされたようですが, IEEE 754 という標準仕様策定や JAVA の言語仕様にも関係されたりしていて, きっと同時に技術者としてのセンスも一流なんだろうと思います. そして会場の参加者に, コンピュータ科学専攻とそれ以外の専攻の学生は何人居るかを挙手させ, "コンピュータ科学以外の皆さんは, 我々の消費者である" と仰っていた所に, 御自身の研究成果がこの社会の多くのものを支えていることに対するの誇りを感じました. 75歳にしてジーンズ + サスペンダーという出で立ち, 極めて明快で聞き取り易い口調, まだまだご健在です.