30歳過ぎから工学 vol.2

http://d.hatena.ne.jp/j130s/ から移行しました.オープンソースロボットソフトウェア技術者兼主夫. 高校・大学学部文系-->何となくソフトウェア開発業-->退職・渡米,テキサス州でシステムズ工学修士取得,しかし実装の方が楽しいと気付き縁があったロボティクス業界で再就職.現在 Texas 州内の産業用オートメーションのスタートアップに Georgia 州から遠隔勤務.

上級SE になるための工学初等教育

システムズエンジニアリングを扱う学術会議のうち最も権威ある学会の1つ, INCOSE のシンポジウムが開かれたようで, 愛読させて頂いているブログ SDM Chronicle に参加の様子が書かれています. 私の元上司も投稿論文が採択されてるようで, さすがです.
会の様子についてはこのブログを読んで頂くとして, 今日は私にも直接関係することとして気になった以下の箇所について. 少し長いけど引用します:


(引用元: http://sdm.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/banquet--sympos.html)
発表も終わって晴れ晴れとした気分の中で、公式のBanquet(パーティ)。
やっぱりシニアが多いけれどためになる話や情報も多く聞けるのが良いところ。
日本の学生はソフトウェアのアルゴリズムは得意だけどモデル化が全くできないとか、電気系の学生が乾電池の電圧を知らないとか記号は知っていても本物の抵抗を見たことがないとか・・・
最近は企業も学生を一から再教育する余裕がないので、工学系の学生にはちゃんと4力学を教えてほしい、さらにはエンジニアリングやマネジメントの分かる学生が欲しいと、大企業の部長さんたちが言っているらしい。
そういう教育ができていない現状の大学院が「失われた2年間」とまで呼ばれているとは知らず、さすがにショックでした。
個人的に思うのは、そういう企業側のニーズを特に学生が知らないのではないだろうか。
特に工学の基礎という点に関し, まさに今学部で工学(/科学)の基礎の基礎, 微積分から基礎力学/化学をやり直している自分としては, 産業界にこういう声があるということを確認し, 自分のしていることは無駄ではないのだと思えるので, とてもありがたいです. いや〜, なんというか, 力が湧いて来ます!
基本的にはこれで ok, 魚が水を得ましたという話で終わりですが, ただ一方で疑問が残ります. これら基礎学問がシステム開発, 特に上流工程に携わるベテランエンジニアにとって, 直感的には理解できるんだけれど, 具体的にはどのように役に立つんでしょう?
日本のソフトウェアシステムに限って言えば, 大規模システム構築のマネジメントに携わっているエンジニアの全員が大学で計算機工学/科学をしっかり修めているわけではなく, むしろ文系出身で, 物理も数学も大学でやってない方も多いはず(日本の情報産業の特徴として, 文系出身者の割合が他の国に比べ高い). それらの方々は職務を重ねる中でセンスを磨いていったのだろうし, そもそも元々センスがあったのだろうが, 所謂 "理工系", 英語で言う "Math-based" 出身でなくても十分務まっているはず. 企業の部長さんや工学を教える教員の方々は何を問題視して, 上記引用のような発言をなさっているのか, もっとお伺いしてみたいところです.
物理学や数学を徹底的に鍛えることの必要性は, (主にソフトウェア開発)エンジニアの実践教育をテーマになさっている元慶応大SFC の大岩先生や, その周辺の方々がおっしゃっていたのを聞いていたので知らない話では無かった. 大岩先生の言を私なりに理解(曲解?)したところでは, 物理学や数学のメリットは, システム構築業従事者にとって有益な "対象となる世界を客観的かつ論理的に把握し表現する" ことが訓練できること, というようなものだっと記憶しています. このことは情報業界においては理解し易い, というのも(知る限り日本では)必ずしもすべての計算機工学/科学系の学校が微積分や力学をみっちり履修しないと卒業できないわけではないから.
しかし, 他の工学の分野, とりわけ航空宇宙や電気の学生さんはひたすら計算計算の毎日だろうと思う. 少しくらい design や managerial なことも教えたら?とうがって心配してしまうくらい. だからおよそ物理学の基礎をを知らない工学部出身者が居るとは思えないので, 引用した企業の方々のご意見がいまいちピンと来ないのです. ひょっとしたら私が大学の工学教育の現状(特に非・計算機系)を知らないだけで, 世間のそれらの学校での物理学・数学教育への力の入れ具合は私が考えてるより弱いのかも知れないですが.
私自身のことをもうちょっと書くと, この1年微積分に苦しみ, この夏は以前書いた通り新たに副専攻することにした機械工学に必須となる, 基礎の物理と化学も履修しています. いづれも17年前の高校時代に少しやった程度でしかなく, かつ英語なので, 苦労してます. ただ, 今回取り上げたような, 産業界でのニーズにやがて結びつくんだ! という思いが, 諦めずに粘らせてくれてます. しかし一方で就業経験からくる,"基礎的過ぎる! 業務との距離があり過ぎるぞ!" とか "正直ソフトウェア開発の現場では直接は使わない知識だ!" という悪魔の囁きが邪魔です. まあいくら基礎教育が大事とは言っても, 30歳過ぎてから仕事辞めてまでして学ぶべきか?と言えば疑問が残る点ではありますから, 仕方ない.
とまあソフトウェア産業の視点からの書き方ばかりになってしまいましたが, どなたか意見,コメント下さると嬉しいです.

なお, システムズエンジニアリングと呼ばれるものが何なのかは今更書きませんが, 日本で言うシステムエンジニア或は SE という職種が扱う内容よりももっと広義のものであり, 同一のものではありません. 詳しくは Wikipedia のこの頁を参照下さい.
最後に, 上記の SDM Chronicle は, システムズエンジニアリングに実際携わっておられる方が, SE の現場で思うことや MIT の大学院プログラムでの経験談等を, それらの興奮をうまいこと伝えて下さっており, 正直私の渡米するきっかけのうちの一つと言っても良い. 興味ある方にはお薦めです.