30歳過ぎから工学 vol.2

http://d.hatena.ne.jp/j130s/ から移行しました.オープンソースロボットソフトウェア技術者兼主夫. 高校・大学学部文系-->何となくソフトウェア開発業-->退職・渡米,テキサス州でシステムズ工学修士取得,しかし実装の方が楽しいと気付き縁があったロボティクス業界で再就職.現在 Texas 州内の産業用オートメーションのスタートアップに Georgia 州から遠隔勤務.

ロボットの軍事利用に異を唱えてる人に異を唱える

混乱を招くタイトルですが,私はロボットの軍事利用に賛成なわけじゃありません.ある人達の主張が意味を為さないのでそれを指摘したいだけです.
日本の某ラジオ局のコラムで,ロボット技術を利用した米軍の UAV (無人飛行機) の問題点を取り上げていた.曰く,米軍では無人機が急増しており,偵察機だけでなく攻撃を行う機体も増えていく,遠隔で殺人ができてしまうのは操縦側 (米軍側) の人の心理にも悪い影響がありそうだし,例え同じ殺傷でも,遠隔でやるのは人道的ではないのではないか,という内容のように思います (番組はここで聞けます).
新しい兵器が現れた時に議論をする事には賛成です.しかしながら,このラジオ番組で問題として取り上げられていた事柄は,新規の問題ではなく,むしろ的外れに感じた.私の軍事の知識不足という点を差し引いても,論理展開に納得がいかず,したがって主張が意味を成していると感じられない.以下,番組が問題にした二点と,それに対する私の意見:
番組内の主張-1.UAV を用いた遠隔攻撃は,人の心理に悪影響仕事としてオフィスに行き,UAV を操縦して遠隔地からバーチャルに殺傷を行い,仕事の後はふつうに家や兵舎に帰る,というようなライフスタイルは兵士の心理に異変を来しかねない.また,攻撃対象の人達に対しても,人道的では無い,とのこと.
UAV での攻撃は,同じく遠隔で標的を攻撃できるミサイルと何が違うだろう?という点を明らかにしていない.相手に被害を,自爆することで与えるか他の手段を使うか,というのがミサイルと UAV 攻撃機との攻撃法の違いであり,ここで議論している遠隔攻撃という意味においてはそう違いがない.ミサイル発射ボタンを押したり制御に携わる人はここ何十年も居る.別に UAV で攻撃するようになったからといって兵士の心理的にそんなに新しい事があるのだろうか.遠隔攻撃を問題とするのであれば,ミサイルを使った攻撃から問い直さないとおかしいと思う.
また,最後の "相手に対して失礼" 的な話はちょっと驚いた..武力紛争のやり方はジュネーヴ条約で一定のルールが定まってますが,戦闘員への攻撃に関しても何か決まってるのかどうかちょっと不勉強で知りません.しかし,少なくともミサイルはバンバン撃ってますよね?

番組内の主張-2.ロボットは兵器利用しちゃだめロボットは平和利用すべき.以上.まる.その意見をもっと日本から世界に向けて発信すべき,なんだそうだ.そしてその根拠はというと,古典的な Isaac Asimovロボット三原則だそうで.
まずマイクロな話からすると,アシモフロボット三原則は自律して動作する (人の操縦を介さない) ロボットにしか適用しないはずなので,遠隔とはいえ人が操縦する UAV に用いるのは議論の余地が大きい.したがってこの時点で既に番組のコメンテータの主張は根拠が揺らいでしまってる.
もうちょっとマクロな話は,たまたま今回ラジオはロボットの兵器利用を批判してるわけだが,兵器ってシロモノは広い範囲の技術の集合体である点はどうなのか.他の技術にはコメントしないで*1,なぜロボット技術だけ槍玉に上げるのか.上記の通りアシモフを引っ張ってくるのは意味が通らないし,そもそも彼らが考える "ロボット" って何なのかすらも怪しく感じてしまう.
こういう筋があやふやな話が日本人から湧いてしまうのは,無条件で攻撃用兵器イコールいけないもの,という意識が強い日本ならではなのかなとも思う.同じ日本人として感情的にはいたしかたないとも思えるのだが,今回のように日本の論理を以って,異なる防衛事情を持つ国の方針を批判しても,議論が成り立たない.
このコメンテータは面白い風貌だしいい事言う人なのかなとなんとなくずっと思ってたけど,今回は,情報としては勉強になったが,主張にいたる論理に上記のとおり素人でも気付く穴があるし,主張そのものがなんじゃそりゃ!だったので,残念.
先にも書いた通り,兵器ってものに対して問題提起したい気持ちはわかるし,議論をすることはいいことだと思う.ただ,論理的に通らない主張は受け手を間違った方向に導くだけで,特にことがロボットに絡められてしまってたので,一筆書かずにおれませんでした.

*1:今までの放送は聞いてませんが,少なくとも今回の放送内で,"これまで一貫して技術の兵器利用に反対してきている" という風には聞こえない.