30歳過ぎから工学 vol.2

http://d.hatena.ne.jp/j130s/ から移行しました.オープンソースロボットソフトウェア技術者兼主夫. 高校・大学学部文系-->何となくソフトウェア開発業-->退職・渡米,テキサス州でシステムズ工学修士取得,しかし実装の方が楽しいと気付き縁があったロボティクス業界で再就職.現在 Texas 州内の産業用オートメーションのスタートアップに California 州から遠隔勤務.

Systems Engineering を米国で学ぶ動機 その一 (+ 寒波とスーパーボール速報)

寒波です! 米国中が大変な寒さで参っている模様.ここテキサス州ダラスでは雪の量は決してそこまで多くはない無いですが(1 ft ≒ 30cm 程度),最高気温が摂氏マイナス5度前後の日が続き路面が凍ったままなため (CNN 曰く "南のテキサスがアラスカより寒い!"),なんと四日連続ほとんどの学校が閉鎖しました.宿題提出が重なっていたのでむしろ私は助かりましたが,車にチェーンを付ける日本文化ならあり得ない慌てっぷりだと思いました.なお今週末はフットボールのスーパーボールがここダラス近郊で行われるのですが,この寒波のため来られない人が多いのかチケット価格の下がりっぷりも激しい(八割オフとか)ようです.しかし関連イベントは聞いた限りではキャンセルされないらしく,自宅近所の国内線空港 (Love Field) には VIP 満載なのか自家用ジェットがひっきりなしに着陸しているのが見えます.とにかくなんだか大混乱な週です.
その割には比較的穏やかな写真達.

車中に放置したペットボトルも凍る.
庭の噴水も凍る.
灯りの部分は温かいらしい.
噴水に登って居眠りツナ,起きたら水が凍っててビックリ!*1
ビスケットにも雪が積もるよ *2


さて,授業は早くも第一回中間試験やプロジェクト課題提出など最初の佳境がやって来ているわけですが,今日は授業で用いる教科書や資料をきっかけとして,私が Systems Engineering (SE) を大学院で学ぶ理由に触れてみます.四つの授業のうち二つでは,米軍関連の学校である DAU (Defense Acquisition University) が発行する次のものを使っています.

いずれも 200ページ超と,英語の教科書/マニュアルとしては決して厚過ぎはしないもののやはり重厚感たっぷり.この他にも SE のマニュアルの類はありがたいことにオンラインで公開されているものが幾つもあり,教科書代が安上がりで済むのは助かります.
これらの文書は日本で働いていた時にも興味があってネットで見つけてはいたのですが,理解できる箇所もあったけれども大半の箇所は抽象的でまったくわからなかった.エンジニアリングとはいえ機械や電気,コンピュータソフトウェアといった実装技術に一切触れない文書なので,同じシステム開発/構築を生業にしている私が理解出来ても良いはずなのに,なぜ?と考えたこともあったが,おそらく理由の一つは単純で,経験してない業務分野が多いから.米国の SE は軍事/航空システムという桁違いに大きな規模の開発から得られた知識体系で,これらの資料を今改めてしっかり読んでみると,まったく経験していない業務が多いと気付かされます.そのせいか渡米後三年目に入って英語のハンデが少し減った今でも,解らない箇所はさっぱりわからない.だが一方,未経験だからといって不要なわけではなく,問題解決のためにむしろ必要な分野.
わざわざ米国に来てまでして SE の大学院に通う理由の一つはここにあります.よくまとまったマニュアルは手に入るのだが,経験に依存するところがある SE という知識体系の性質上,未経験の業務に関する箇所は,例え理解し記憶したとしても,いざ実際に問題に直面した時に使えるとは限らない.複雑に見える問題に対しどのツールをどう使えば良いのか,というのは簡単で無いことも多いのです.ところが,十分な経験を持った講師に説明を受けると,その業務の必要性や,対策手法の効果に不思議とすんなり納得がいき,その結果として教科書の理解も進むように思います.講師達の授業を聞き,授業後に会話することで,自分が知らない大規模開発の現場でなにが問題になるのか?どうやって解決するのか?を垣間見ることができ *4,スキルを使いこなすための経験値も増やすことができるように感じます.
一方,そんなに経験が大事だというなら学生なんかやらずに仕事すれば良いじゃないか,と思うかも知れませんが,仕事を続けても関わらない業務というのはあり,また担当範囲においても業務をよりよく遂行するための教育/トレーニングの機会をいつも持てるとは限らず,持てたところで包括的に知識/スキルを身に付ける時間が確保できる保証は無いため,効率が良いとは言えない.今後のキャリアで製品の企画と設計により深く関わっていきたいと考えた結果,エンジニアリングプロセス全体に関する知見を効率よくしかも深く得たい,それには,金も時間もかかるけれども,学校に戻るのが最良だと判断しました (のが三年前の丁度今頃).
更に言うと個人的な夢である宇宙開発 (SE の一大応用分野) への貢献という意味でも SE を選んだことはプラスに働くかと考えています.問題は雇ってもらえるかどうかですが,それは現在まだ進行中の話なので置いておきます.
ちなみに,ちょうど私が渡米した 2008年に慶応大学が (おそらく日本初の) 米国式 SE を取り入れた大学院を開講したのでそちらで学ぶ,ということも考えました.しかし日本でどれほどの企業に SE が深く根付き,SMU の講師達のような "(大学でない) エンジニアリング現場で鍛えられた",あるいは良くも悪くも "SE の権化"*5 のような方々がどれだけいらっしゃるか当時 (も今も) わかっておらず,またアメリカで挑戦したいという気持ちも相まって渡米しました.日本は (特に機械系で) 世界に冠たる独特のエンジニアリング風土を持っていると思うので,それが米国発 SE と結び付けられるその大学院で何がどう学べるのかとても興味がありましたが,私自身は特徴的な日本的手法を経験したわけでもないので,日本にこだわる必要も無いと思っています.
今学期はとにかく読む宿題が多い.今週も 200ページ超読まねばなりません...勉強に戻ります.


図1.エンジニアリングの V字 プロセス.左から右へ.私は Understand,Design,Build しかまともに経験してません.Acquisition,Verify にも少しは関わったが,いずれにせよシステム規模は授業で想定しているものや軍事産業で働いているクラスメイト達のそれとは比べ物にならないほど小さい.(クリックして拡大版をダウソロード可)

*1:ウソ.凍ってるところに登らせました.

*2:これもウソ.

*3:2/4/11 現在リンク先が落ちてますが.

*4:例えば私の場合は商品開発の初期段階の担当が長かったので,要求分析やプロトタイプの設計,部品の購入には慣れているのだが,本格的な製品化に携わっていないため品質/リスク管理を考慮した設計/意思決定プロセスの経験に乏しい.また SE が定義している六つのプロセス(図1)と見比べると局所的に二つくらいしかきちんと関わっていないことに気付きます.

*5:SE が唯一絶対的に素晴らしいものなわけではありません.また,軍事産業出身の講師らが現場の SE に長年どっぷり浸かって来ていることのデメリットも無いわけではないはず.消費者向けの製品企画をやってきた者としては違和感を感じる部分もないわけではない.今後触れていきます.